Aさんは、全国に数百店舗を展開する小売チェーンの物流部門で、日々の配送計画を統括しています。
2拠点から30台近いトラックを走らせ、数百店舗へ商品を届ける――。その複雑な配送ルートを、Aさんはこれまで表計算ソフトを駆使して組み立ててきました。しかし、店舗数や出荷量の増加とともに処理が追いつかず、担当者ごとの経験や勘に頼らざるを得ない状況に。「時間もかかるし、ミスも増えてきた。このやり方に限界を感じていました」とAさんは語ります。
ドライバーの負担を平準化し、コストを抑えながら、納品時間を守る――。
そんな“理想の配送ルート”をどうすれば実現できるのか。現場の最前線に立つAさんは、数理最適化AIチャット「Gurobot(グロボット)」に相談を持ちかけました。
前編では、そんなAさんの現状整理をGurobotがお手伝いするやり取りから始まります。
はじめまして。私は国内で小売チェーンの物流部門を統括しているAと申します。
毎日数百店舗への配送ルートを表計算ソフトで組んでいるのですが、店舗数や出荷量が増えるにつれて処理が追いつかず、担当者ごとの属人的な工夫に頼っているのが実情です。時間もかかり、ミスが起きやすくなっています。
Gurobotさん、こうした状況で、ドライバーの負担を平準化しながら、配送コストを抑え、納品時間を守れるルートを組むには、どうすればよいでしょうか?
はじめまして、Aさん。Gurobotです。
ご相談いただき、ありがとうございます。数百店舗への配送ルート計画が属人化し、処理が追いつかない状況とのこと、よく理解いたしました。
このような配送ルート最適化の課題は、Vehicle Routing Problem(VRP、配送計画問題)として数理最適化で解決できる典型的なケースです。Gurobi Optimizerを活用することで、複数の制約条件を同時に考慮しながら、最適または非常に良質なルートを自動的に計算することが可能です。
まず問題の詳細を整理させてください
より具体的なモデルを設計するため、以下の点について教えていただけますでしょうか:
1. 配送の基本構造について
2. 制約条件について
3. 目的(優先順位)について
現在、以下のような複数の目標を挙げられていますが、優先順位をつけるとしたらどうなりますか?
4. データの状況について
これらの情報をいただければ、具体的な数理最適化モデルの設計方針をご提案できます。また、Gurobiを使った実装方法や、既存の表計算ソフトフローとの連携方法についてもアドバイスさせていただきます。いかがでしょうか?
Gurobotさん、早速のご返信ありがとうございます。数理最適化は専門外なので、かみ砕いたご説明をお願いするかもしれませんが、まず現状と希望を共有します。
■ 現状の前提(ざっくり)
■ 制約として見てほしい点
■ 目的の優先度(仮)
■ データの手持ち状況
■ まずは小さく試したい(パイロット案)
■ いくつか教えてください(非エンジニア向けに)
■ 成功基準(仮置き)
■ 懸念と希望
以上です。まずはパイロット対象のテンプレと、モデルの考え方(目的関数と主な制約のやさしい説明)をご共有いただけると、社内説明がしやすくなります。よろしくお願いします。
ありがとうございます!知識ベースから情報を確認できました。それでは、非エンジニア向けに「やさしい説明」をベースに、実務的な観点から各質問にお答えします。
【全体像】この問題は何を解くのか
Aさんが取り組もうとしているのは、VRPTW(Vehicle Routing Problem with Time Windows:時間枠付き配送計画問題)と呼ばれる数理最適化の代表的な問題です。これに、積載容量制約や冷蔵/常温の分離、複数デポといった実務制約が加わった形です。
やさしい説明:目的関数と制約
目的関数(何を最良にしたいか) Aさんの場合、複数の目標があります:
これらを同時に最適化するには、GurobiのMulti-Objective Optimization(多目的最適化)機能を使います。
主な制約(守らなければならないルール)
【質問への回答】
❶ 最低限必要な入力項目と表計算ソフト列見出し例
パイロット(東部デポ、常温車、50-80店舗)で必要な入力データは以下です:
① 店舗マスタ(店舗テーブル)
| 列見出し(推奨名) | 説明 | 例 |
|---|---|---|
| 店舗ID | 店舗の一意識別子 | “STORE_001” |
| 店舗名 | 名称(任意) | “新宿1号店” |
| 緯度 | 店舗の緯度 | 35.6895 |
| 経度 | 店舗の経度 | 139.6917 |
| 時間帯開始 | 納品可能時間の開始(HH:MM) | “10:00” |
| 時間帯終了 | 納品可能時間の終了(HH:MM) | “12:00” |
| サービス時間_分 | 降ろし・検品時間(分) | 15 |
② 日別出荷量(配送需要テーブル)
| 列見出し(推奨名) | 説明 | 例 |
|---|---|---|
| 日付 | 配送日 | “2025-10-15” |
| 店舗ID | 店舗マスタと対応 | “STORE_001” |
| 出荷量_容積_m3 | 容積ベース(㎥) | 0.8 |
| 出荷量_重量_kg | 重量ベース(kg、任意) | 120 |
| 冷蔵_常温 | “冷蔵” or “常温” | “常温” |
③ 車両マスタ
| 列見出し(推奨名) | 説明 | 例 |
|---|---|---|
| 車両ID | 車両識別子 | “TRUCK_E01” |
| 所属デポ | “東部” or “西部” | “東部” |
| 最大積載容積_m3 | 最大積載量(㎥) | 8.0 |
| 最大積載重量_kg | 最大積載量(kg) | 2000 |
| 温度帯 | “冷蔵” or “常温” | “常温” |
④ 距離・時間行列(デポと店舗間)
後述しますが、Google Maps APIやMapbox APIを使って自動生成できます。 手作業の場合、以下のような行列形式:
| 出発地ID | 到着地ID | 距離_km | 所要時間_分 |
|---|---|---|---|
| “DEPOT_東部” | “STORE_001” | 12.5 | 25 |
| “STORE_001” | “STORE_002” | 3.2 | 8 |
| … | … | … | … |
❷ 時間帯遵守を最優先にしたとき、距離増とのトレードオフ設定(重み付け)
Gurobiでは、階層的(Hierarchical)アプローチ と 重み付き(Blended)アプローチ の2つの方法があります。
推奨:階層的アプローチ(優先順位明確)
Aさんのケースでは「納品時間遵守が最重要」とのことなので、階層的多目的最適化が最適です。具体的には:
この方法では、まず時間帯遵守を最優先で解き、その解を一切悪化させない範囲で、次に距離を最小化します。
重み付けアプローチ(柔軟性重視)
もし「若干の遅延は許容するが、大幅なコスト削減があれば検討したい」という場合は、重み付き目的関数を使います:
![]()
実務的な重み設定例:
(遅延1回 = 1000kmの距離増に相当)
(距離1km = コスト1単位)
(偏差1時間 = 距離10kmに相当)この重みは、「時間帯遅延1回を避けるために、何kmまでの遠回りを許容するか」 という経営判断を数値化したものです。
❸ 左折制限や高さ制限など、一部店舗の進入ルールのモデル化
左折制限・右折禁止
これは非対称距離行列として扱います。
つまり、距離行列を作成する際に、進入ルールを反映した実際の走行距離・時間を登録します。
高さ制限・車両制限
Indicator Constraint(指示制約) を使います。
例:店舗Sに高さ制限があり、車両Tは進入不可の場合
![]()
これは、モデル構築時に該当する変数を固定するか、制約として明示的に追加します。
実装の簡便性
パイロットでは、まず進入制約のない店舗だけで試し、次のステップで制約店舗を追加するのが現実的です。
❹ 緊急の当日追加(15時に1店舗追加)への対応
これはDynamic Routing(動的ルーティング) の問題です。
アプローチ①:部分的な再最適化
既存ルートをできるだけ維持しながら、追加店舗を挿入します。
アプローチ②:固定制約付き最適化
既存ルートの大部分をWarm Start(初期解)としてGurobiに渡し、変更可能な部分のみを最適化します。
実装イメージ
この機能は、GurobiのMIPStart(初期解の提供) 機能を使うことで実現できます。
❺ 解の計算時間の目安と、近似解の扱い方
パイロット規模(50-80店舗、10-15台)での計算時間
Gurobiは、最適解を見つける前でも、途中経過で「現在の最良解」を逐次更新します。
実用的な近似解の扱い方
以下のパラメータで制御できます:
解が出ない場合の対応
❻ 現場への共有:出力形式(地図表示・時系列表)
推奨出力形式
A. 表計算ソフト形式(ルート詳細表)
| 車両ID | 訪問順 | 店舗ID | 店舗名 | 到着予定時刻 | 出発予定時刻 | 積載量累計 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| TRUCK_E01 | 0 | DEPOT_東部 | 東部デポ | 08:00 | 08:30 | 0 | 積込完了 |
| TRUCK_E01 | 1 | STORE_012 | 渋谷店 | 09:15 | 09:30 | 1.2㎥ | |
| TRUCK_E01 | 2 | STORE_045 | 代官山店 | 09:45 | 10:00 | 2.5㎥ | |
| … | … | … | … | … | … | … | … |
B. 地図表示(Webベース)
C. ガントチャート(時系列表)
サンプル出力のコード例
後ほど、簡易的なPythonコードのサンプルをお示しできます。
❼ 既存フロー連携:毎朝の出荷量CSVを取り込んでワンクリック出力
理想的なワークフロー
[ 毎朝の出荷量CSV ]
↓
[ Pythonスクリプト実行(ワンクリック) ]
├─ データ読込・前処理
├─ Gurobiモデル構築
├─ 最適化実行(3分以内)
└─ 結果出力(表計算ソフト、地図、PDF)
↓
[ 人手の調整画面(オプション) ]
├─ 時間帯の微修正
├─ 特定店舗の優先度変更
├─ 車両の追加・削除
└─ 再最適化ボタン
↓
[ 最終ルート確定 → 現場へ配信 ]
技術的な実現方法
【成功基準の妥当性チェック】
Aさんが設定された目標値について、実務的な観点からコメントします:
| 指標 | 現状比目標 | 妥当性 |
|---|---|---|
| 納品時間帯遵守率 | +5pt以上 | 妥当。属人的な計画から最適化への移行で、十分達成可能です。 |
| 総走行距離 | ▲8〜10% | やや楽観的。現場の工夫がすでに効いている場合、5〜8%程度が現実的かもしれません。 |
| 作業時間の標準偏差 | ▲15% | 妥当。負担平準化を明示的に目的関数に入れることで達成可能です。 |
パイロット後、実績データをもとに調整することをお勧めします。
【難所への対処:冷蔵/常温分離と出荷バッチ】
冷蔵/常温の分離
これはFleet Heterogeneity(異種車両混在)の問題です。
モデル上は、車両ごとに訪問可能店舗を事前にフィルタリングすることで実装します。
出荷バッチ(出荷データをバッチごとに分けて一括送信する方法)との整合
出荷バッチは、デポでの出発時刻に制約を設けることで表現できます。
各車両の出発時刻を固定するか、離散的な選択肢として変数化します。
【次のステップ:パイロット実施に向けて】
【ご質問・確認事項】
ご不明点があれば、何でもお気軽にお尋ねください!
Gurobotさん、詳しいご説明をありがとうございます。
正直、数理最適化という言葉自体になじみがなく、内容の一部はまだ理解が追いついていませんが、すごく整理されたご回答でイメージが湧いてきました。うちの現場でも「どの車で、どの順番にまわるか」を決めるのに毎日かなりの時間を使っており、まさにその部分を自動化できるのではと期待しています。
後編では、数理最適化の実際のモデルを組みはじめるところまで踏み込んでいきます。
▽Gurobot連載第2回|「表計算ソフトの限界」が見えたとき(後編)は近日公開予定です。
▽Gurobot(グロボット)公式ページはこちら
https://www.gurobi.com/solutions/gurobot/
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