桜の開花予想が気になりはじめる3月。「今年はいつが見頃だろう」「週末に当たるだろうか」と、なんとなく予定を考える方も多いのではないでしょうか。
一見すると、ただの季節の風物詩に見えるお花見の計画ですが、少し視点を変えてみると、そこには意外と複雑な意思決定が潜んでいます。満開を狙いたい一方で、混雑は避けたい。天気も気になるし、移動の負担も抑えたい。けれど、そのすべてを同時に満たすのは簡単ではありません。
今回取り上げるのは、「今年いちばん幸せなお花見は、いつ・どこか?」という、誰もが一度は悩んだことのある問いです。この身近なテーマを通して、数理最適化がどのように「後悔しない意思決定」を支えてくれるのかを、Gurobi Japanの数理最適化コンサルティング シニアマネージャー・乾伸雄が、やさしく読み解いていきます。
Dr. Nobuo Inui こんにちは。Gurobi Japanで数理最適化に携わっている乾です。
少し季節の話をしてもいいでしょうか。3月になると、毎年のように話題になるのが「桜の開花予想」ですよね。
今年はいつ咲くのか。満開は何日頃か。週末に当たるのか、平日なのか。
ニュースを見ながら、「この日かな」「いや、こっちの方がいいかな」と、なんとなく予定を考える。実はこの時間、とても人間らしくて、私は好きです。
でも、もし会社のお花見幹事を任されたら。こんなケースを想定してみましょう。参加者は20名想定。場所は赤坂のオフィスからアクセスがいい場所。お酒も飲むので運転はNG。できれば仕事終わりに開催したほうが、皆さんの負担にならないですよね。
… 途端に、ちょっとだけ頭が重くなりませんか?
まず前提として、2026年の東京の開花予測は3月21日ごろとされています。ここから1週間前後が、いわゆる「お花見シーズン」です。
多くの方は、こう考えるかもしれません。
「満開の日がいちばんきれい。だから、その日を狙えばいい」
もちろん、それは自然な発想です。ただ、少しだけ立ち止まってみましょう
桜は最高でも、体験としてはどうでしょうか。数理最適化の世界では、こうした状況を「目的がひとつではない問題」すなわち、多目的最適化問題として扱います。
ここで、少しだけ整理してみましょう。今回のお花見で、動かせるものは何でしょうか。
これを、数理最適化では「決定変数」と呼びます。難しく聞こえますが、「自分たちで選べる項目」くらいに思ってください。
一方で、守らなければならない条件もあります。
これが「制約条件」です。つまり、「こうなったら困る」というラインですね。
そして最後に、「できればこうしたい」という希望があります。
これが「目的」です。
ここで大事なのは、これらを同時に100点満点にすることは、ほぼ不可能だという点です。
例えば、写真が好きな人にとっては、満開度と天気が最優先かもしれません。
一方で、久しぶりに集まるメンバーなら、ゆっくり話せることや、席が確保できることの方が大切かもしれません。
つまり、何を重視するかによって、「最適な日」も「最適な場所」も変わるのです。
数理最適化では、こうした状況を「多目的最適化問題」と呼びます。
難しそうに見えますが、やっていることはとても人間的です。
全部大事。でも全部は取れない。だから、どこを大事にするかを決める。
今回のケースで、いくつか面白い考え方があります。
①「満足度の合計」で決める
それは、満開予想日のど真ん中ではなく、その他の要素も加味したうえで満足度の重み付けを行う、という選択です。
例えば、
「満開の桜を観る」という満開度は少し下がるかもしれませんが、
結果として、「みんなの満足度の合計」は、むしろ高くなる可能性があります。直接比較ができない要素を「満足度」という形で共通指標にして、それぞれの選択肢の満足度の合計で順位付けをすることで、意思決定がしやすくなります。
これも、立派な数理最適化的判断です。
②「パレート解」で決める
数理最適化では「パレート解」という考え方があります。「パレート解」とは何かしらが他の解より優れている解の集まりです。例えば、
満開に一番近い解(A)と混雑が少ない解(B)
を比べてみましょう。おそらく、Aの混雑はBの混雑よりひどくて、Bの満開度はAの満開度よりも低いですよね。つまり、Aの方がBよりも満開度では優れていて、Bの方がAよりも混雑度では優れていることになります。
おそらく、次のような解Cも存在します。
| 満開度 | 混雑度 | アクセス | |
|---|---|---|---|
| 外濠公園(四谷見附)・満開日当日 | ◎ | △ | ◎ |
| 上野恩賜公園・満開日前後 | ◯ | ◯ | ◯ |
| 昭和記念公園・満開日当日 | ◎ | ◎ | △ |
※それぞれの評価はあくまで主観的なものであり、効果を保証するものではありません
Cの混雑度はAよりも優れていて、満開度はBより優れているが、アクセスの良さでA,Bより劣る。
このようなA,B,Cをパレート解集合と呼び、他のどの解よりも何かしらが優れた解です。混雑度と満開度は直接比較をしづらいので、このようなパレート解によって選択肢を絞り込み、参加者に投票してもらって、場所・日付を選択するのも良いアイデアですね。
最後に、幹事さんにとっての朗報を。
こうして条件と目的を整理して選んだ日程なら、こう言えるかもしれません。
「数理最適化的には、この日がいちばんバランスが良かったんです」
冗談のようですが、実はとても誠実な説明です。感覚や運任せではなく、みんなの条件をちゃんと考えた結果。
数理最適化は、「正解を押しつける道具」ではありません。「なぜ、そう決めたのか」を自信を持って説明するための、考え方なのだと思っています。
今年のお花見が、誰かにとって「思い出に残る一日」になるなら。その裏側に、小さな最適化がひとつあっても、いいですよね。
ここまで読んでくださって、「なんだか、仕事の意思決定と似ているな」と感じた方もいるかもしれません。
実は、ビジネスの現場でも、これとよく似た状況はたくさんあります。
──けれど、そのすべてを同時に満たすのは難しい。
だからこそ、「何を一番大切にするのか」「どこでバランスを取るのか」を整理しながら決めていく必要があります。
数理最適化は、こうした“トレードオフだらけの意思決定”を、感覚ではなく言葉と理由で支えるための考え方なのです。
※この記事は、Gurobi Japanの最適化コンサルティング シニアマネージャー・乾が監修しました。
数理最適化やGurobiの導入に関心のある企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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著者プロフィール
乾伸雄(いぬい・のぶお)株式会社Gurobi Japan 最適化コンサルティング シニアマネージャー。博士(情報学)。製造業を中心に、数理最適化を活用した業務改善・意思決定支援に携わる。現場に寄り添いながら、複雑な課題を“解きほぐす”コンサルティングに定評がある。
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Senior Manager of Consulting Group
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Dr. Nobuo Inui holds a Ph.D. in Informatics from The Graduate University for Advanced Studies in Japan. His doctoral research focused on efficiently resolving mathematical problems using MILP (Mixed-Integer Linear Programming) and SAT (Boolean Satisfiability Problem) solvers.
Following completing his doctoral studies, Nobuo embarked on a career that has spanned a decade at October Sky. Currently, he leads the optimization consulting team, where he applies his expertise in mathematical optimization. Notably, he has excelled as a modeling consultant, specializing in developing intricate models featuring practical and logical constraints.
Outside the optimization realm, Nobuo enjoys various activities during his leisure time. He is an avid hillwalker, relishing the serene beauty of nature. Additionally, he indulges in the rejuvenating pleasures of hot spring baths and the invigorating experience of bike riding. Nobuo's diverse interests mirror his multifaceted career, demonstrating his passion for professional and personal pursuits.
Dr. Nobuo Inui holds a Ph.D. in Informatics from The Graduate University for Advanced Studies in Japan. His doctoral research focused on efficiently resolving mathematical problems using MILP (Mixed-Integer Linear Programming) and SAT (Boolean Satisfiability Problem) solvers.
Following completing his doctoral studies, Nobuo embarked on a career that has spanned a decade at October Sky. Currently, he leads the optimization consulting team, where he applies his expertise in mathematical optimization. Notably, he has excelled as a modeling consultant, specializing in developing intricate models featuring practical and logical constraints.
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