玄関先に届く荷物、コンビニで受け取る宅配便。わたしたちの日常に当たり前になった「配送」の裏側には、実は多くの悩みと工夫が潜んでいます。なかでも、物流の“最後の一手”——「ラストワンマイル」と呼ばれる最終区間の配送は、コストの約半分を占めるとも言われ、物流業界にとって大きな課題のひとつです。
この連載では、そんな身近な問いを出発点に、数理最適化という“考える技術”をやさしくひもといていきます。今回は、あなたが配送センターの担当者だったら?というクイズ形式で、宅配ルートの設計に挑戦してみましょう。数理最適化の代表的な問題「巡回セールスマン問題(TSP)」と「割当問題」を使って、株式会社Gurobi Japanの最適化コンサルティング シニアマネージャー・乾伸雄氏が解き明かします。
AIはとても強力な道具ですが、「もっともらしい答え」を返す一方で、必ず正しいとは限りません。本連載では、制約条件や目的を一つひとつ言葉にしながら、数理最適化によって、あなたのすぐそばにある日常や仕事の悩みを「どう解決を目指すのか」を具体的な事例とともに見ていきます。
Dr. Nobuo Inui あなたは大手宅配会社の配車担当者。ある日、以下のような配送スケジュールを立てなければならなくなりました。
では、実際に以下のような条件を踏まえて3択クイズを考えてみましょう。さて、配送にかかる時間を最小化できるのはどのパターンでしょうか?
条件:

移動時間(片道ベース)
| 区間 | 移動時間 |
|---|---|
| 軽バン① ⇔ A地区1 | 10分 |
| 軽バン① ⇔ A地区2 | 8分 |
| 軽バン① ⇔ B地区3 | 15分 |
| 軽バン① ⇔ 合流地点 | 5分 |
| 軽バン① ⇔ 配送センター | 10分 |
| 配送センター ⇔ A地区1 | 10分 |
| 配送センター ⇔ A地区2 | 8分 |
| 配送センター ⇔ B地区3 | 9分 |
| 配送センター ⇔ 合流地点 | 3分 |
| A地区1 ⇔ A地区2 | 9分 |
| A地区1 ⇔ B地区3 | 20分 |
| A地区2 ⇔ B地区3 | 30分 |
| 合流地点 ⇔ A地区1 | 8分 |
| 合流地点 ⇔ A地区2 | 10分 |
| 合流地点 ⇔ B地区3 | 15分 |
選択肢:
A)そのまま進める:軽バン①がすべて配達(A地区2→A地区1→B地区3)
B)合流して渡す:軽バン①はA地区1・2に配達後、合流地点でB地区の荷物を②に渡す
C)再仕分けして戻す:軽バン①は一度配送センターに戻り、B地区の荷物を軽バン②に積み直す
ではここからは、Gurobi Japanの数理最適化コンサルタントの乾伸雄(いぬい・のぶお)氏に解説してもらいましょう。
こんにちは、Gurobi Japanの数理最適化コンサルタント、乾です。
今回のような「どのルートを選ぶか?」という問題、現場ではよくあることです。たとえば荷物の積み間違いや、急な予定変更。これらをどうリカバリーするかが、物流の現場では日々問われています。
こうした場面でも、“数理最適化”は力を発揮します。
■ 移動時間の合計を最小にしたい——どう考える?
まずは、それぞれの選択肢における配達完了までの合計時間を計算してみましょう。
A)軽バン①がすべて配達
→ 合計:37分
B)合流して渡す
→ 合計:47分
C)配送センターに戻る
→ 合計:軽バン①=32分、軽バン②=14分、配り終えるまではで32分
よって今回の選択肢の中での正解は、C)配送センターに戻る となりました。
もっと自由に2台の軽バンで荷物のやりとりができると別な答えも見つかります。例えば、軽バン①が荷物を配り終える前に合流地点に向かうことができると、次の答えが見つかります
この場合は、27分で配送が完了します!
たくさん荷物を積んだ状態で荷物の入れ替えができない場合もあるので、現実の条件を考えて解く必要がありますね。
こうして1つの選択肢ごとに時間を計算していく方法もありますが、実はこのような判断、「配送路問題」と「割当問題」の組み合わせで考えることができます。
さらに今回は、荷物の受け渡し(積替え)というオプションがあるため、「移動時間+積替え時間」という合計を考える必要がありました。
たとえば、
こうした条件を数式に落とし込み、全体の“コスト最小化”を目指すのが、数理最適化です。
このような判断、従来はベテラン配達員の「勘」に頼って決めていたかもしれません。
けれど、ドライバー不足、再配達問題、環境配慮、さらにはEC市場の拡大など、物流の現場はますます複雑化しています。すなわち、今回でいう制約条件がより多岐にわたるということです。
そこで役に立つのが、「直感を補完する数理的な意思決定」です。データと数式で支えられた判断があれば、現場の負担を減らし、再現性のあるオペレーションを構築することができます。
「これって一部の大企業や研究者の話では?」と思われるかもしれません。でも、だからこそ今、数理最適化が必要なのです。
物流の“2025年問題”と呼ばれるドライバー不足や再配達の増加、長時間労働といった社会課題は、現場の努力だけでは限界を迎えています。人口減少が進む日本では、今後ますます「人とAI」「現場とテクノロジー」が力を合わせることが不可欠になります。
数理最適化は、こうした複雑で多様な制約を乗り越え、最善の一手を導き出す“もうひとりの参謀”です。勘や経験だけでは立ち行かなくなるこれからの時代にこそ、論理と数字による判断が、組織にも社会にも求められているのではないでしょうか。
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著者プロフィール
乾伸雄(いぬい・のぶお)株式会社Gurobi Japan 最適化コンサルティング シニアマネージャー。博士(情報学)。製造業を中心に、数理最適化を活用した業務改善・意思決定支援に携わる。現場に寄り添いながら、複雑な課題を“解きほぐす”コンサルティングに定評がある。
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Senior Manager of Consulting Group
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Dr. Nobuo Inui holds a Ph.D. in Informatics from The Graduate University for Advanced Studies in Japan. His doctoral research focused on efficiently resolving mathematical problems using MILP (Mixed-Integer Linear Programming) and SAT (Boolean Satisfiability Problem) solvers.
Following completing his doctoral studies, Nobuo embarked on a career that has spanned a decade at October Sky. Currently, he leads the optimization consulting team, where he applies his expertise in mathematical optimization. Notably, he has excelled as a modeling consultant, specializing in developing intricate models featuring practical and logical constraints.
Outside the optimization realm, Nobuo enjoys various activities during his leisure time. He is an avid hillwalker, relishing the serene beauty of nature. Additionally, he indulges in the rejuvenating pleasures of hot spring baths and the invigorating experience of bike riding. Nobuo's diverse interests mirror his multifaceted career, demonstrating his passion for professional and personal pursuits.
Dr. Nobuo Inui holds a Ph.D. in Informatics from The Graduate University for Advanced Studies in Japan. His doctoral research focused on efficiently resolving mathematical problems using MILP (Mixed-Integer Linear Programming) and SAT (Boolean Satisfiability Problem) solvers.
Following completing his doctoral studies, Nobuo embarked on a career that has spanned a decade at October Sky. Currently, he leads the optimization consulting team, where he applies his expertise in mathematical optimization. Notably, he has excelled as a modeling consultant, specializing in developing intricate models featuring practical and logical constraints.
Outside the optimization realm, Nobuo enjoys various activities during his leisure time. He is an avid hillwalker, relishing the serene beauty of nature. Additionally, he indulges in the rejuvenating pleasures of hot spring baths and the invigorating experience of bike riding. Nobuo's diverse interests mirror his multifaceted career, demonstrating his passion for professional and personal pursuits.
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