ブログ

熟練者は「小数点」を見ていない ─ 豊田自動織機が数理最適化で63%の工数削減に成功した生産計画改革

Gurobi Connect 2026 in Fukuoka 講演レポート

ブログ

熟練者は「小数点」を見ていない ─ 豊田自動織機が数理最適化で63%の工数削減に成功した生産計画改革

Gurobi Connect 2026 in Fukuoka 講演レポート

ブログ

熟練者は「小数点」を見ていない ─ 豊田自動織機が数理最適化で63%の工数削減に成功した生産計画改革

Gurobi Connect 2026 in Fukuoka 講演レポート

author

Gurobi Team

Gurobi Team

Bio

製造現場の高齢化と技能継承は、いまや多くの日本企業が抱える共通課題だ。複数のベテランが長年かけて培ってきた判断を、どうやって一人の若手技能者へ、あるいはシステムへ引き継ぐのか。豊田自動織機は、カーエアコン用コンプレッサー部品を生産する大府工場のダイカスト※1工程において、この問いに数理最適化で挑んできた。2026年6月に福岡市で行われたGurobiのユーザーイベント「Gurobi Connect」に登壇した同社ITデジタル推進部の山根氏は、月末に集中していた1,000時間規模の計画業務の工数を63%削減した取り組みの全貌と、「導入したからこそ見えてきた」次なる課題を率直に語った。本レポートでは、熟練者の暗黙知を数式へ翻訳する過程で得られた驚きの発見と、数理最適化が組織に根づくまでに立ちはだかる「壁」を紹介する。

※1ダイカスト(die casting):融かした金属を金型に流し込み成形する鋳造方式で、高い寸法精度の鋳物を比較的短時間に大量生産できることが特徴。



「熟練の担当者がいないと成り立たない」──本社IT部門が選んだ最初の一手

豊田自動織機は、豊田佐吉が発明した織機を源流に持ち、のちに自動車部門としてトヨタ自動車を生み出した企業として知られる。現在は繊維機械、自動車関連(車両、エンジン、コンプレッサー、カーエレクトロニクスなど)、トヨタ L&F ブランドなどで提供する産業車両・物流ソリューションなど幅広い事業分野をグローバルに展開している。山根氏が担当するのは、愛知県大府市の大府工場で行われるダイカスト工程の生産計画だ。同工場はアルミ部品の金型設計・製造から、ダイカスト、加工までを一貫して手がけており、世界シェア首位(同社調べ)を誇るカーエアコン用コンプレッサーの製造を支える重要な拠点となっている。現場には57ライン・約400品番という「多品種少量生産」特有の難しさが横たわる。

山根氏が所属するITデジタル推進部は、「全社の事業に入り込み、新たな価値を共創するビジネスパートナー」を掲げる部署だ。複数のベテランが担ってきた技能を若手技能者へ継承しなければならない状況は、生産管理の現場でも同じだった。

「熟練の担当者がいないと成り立たない、という状況から脱却しなければならない」。

高齢化が進むなか、同氏に託されたのが全社への数理最適化技術の展開だった。

山根 有輝也(やまね・ゆきや) 株式会社豊田自動織機 ITデジタル推進部:修士課程を修了し、2020年に豊田自動織機へ入社。データサイエンスを軸に、社内業務に内在する暗黙的なルールや判断基準を整理し定式化することを強みとする。現在は、工場内の設備レイアウトの最適化など、数理最適化を中心とした新たなテーマに取り組んでいるほか、社内における数理最適化人材の育成・指導にも挑戦中。

山根 有輝也(やまね・ゆきや) 株式会社豊田自動織機 ITデジタル推進部:修士課程を修了し、2020年に豊田自動織機へ入社。データサイエンスを軸に、社内業務に内在する暗黙的なルールや判断基準を整理し定式化することを強みとする。現在は、工場内の設備レイアウトの最適化など、数理最適化を中心とした新たなテーマに取り組んでいるほか、社内における数理最適化人材の育成・指導にも挑戦中。

山根 有輝也(やまね・ゆきや) 株式会社豊田自動織機 ITデジタル推進部:修士課程を修了し、2020年に豊田自動織機へ入社。データサイエンスを軸に、社内業務に内在する暗黙的なルールや判断基準を整理し定式化することを強みとする。現在は、工場内の設備レイアウトの最適化など、数理最適化を中心とした新たなテーマに取り組んでいるほか、社内における数理最適化人材の育成・指導にも挑戦中。

取り組みが動き出したのは2018年頃。最初からダイカスト工程に狙いを定めていたわけではなく、全社からさまざまな改善案を洗い出したうえで、生産稼働計画の最適化に的を絞ったという。理由は明快だ。生産管理はどの工程にも不可欠で横展開の余地が大きいこと。そしてダイカスト工程は金型を使う多品種少量生産であり、品番を頻繁に切り替えられず、ロット単位の計画生産に頼らざるを得ないこと。

「複雑な要素が大きいということは、裏を返せば最適化の効果も大きい」。

候補の選定から経営陣への説明、リソース確保を経て実際に着手するまでには、約3年を要した。


月末に集中する「1,000時間」、そして“10の240万乗”という壁

2021年当時、生産管理の現場は月末に集中する計画立案に追われていた。担当者は丸一日、約10時間ほどをかけて2週間分ずつ、ひと月分の計画を組み上げる。だが受注のキャンセルや変更は相次ぎ、立てたそばから毎日見直しが発生する。製造部門の組長・班長からは「なぜ変更になったのか、変更処理はまだか」などの電話が鳴り続けた。こうした立案・修正にかかる時間は、全員の合計で毎月およそ1,000時間。山根氏のチームは、この60%削減を目標に掲げた。

しかし、現実を最適化問題へ落とし込む作業は容易ではなかった。400品番それぞれに平均3個ほどの金型があり、稼働するマシンは約60基。2直2交替で稼働し、時差出勤などの勤務形態の違いもある。単純に掛け合わせれば、組合せはおよそ「10の240万乗」通りという途方もない数に膨れ上がる。

「これは生産計画あるあるです」と山根氏。さらに、満足させたい指標は担当者によって異なり、型替え回数※2、無駄な在庫、残業時間など全部で60項目にのぼった。何を「最適」とするのかという尺度そのものが、一つに定まらないのだ。

※2 型替え(かたがえ):生産計画に沿って、生産品番を切り替えるために設備の金型を別品番用の金型へ交換する作業。頻繁に行うと段取り時間が増えるため、回数を抑えたい指標である。


「唯一、解けたソルバー」としてのGurobi Optimizer

手法として選ばれたのは混合整数計画法(MIP※3)だった。汎用性と最適性、そして習得のしやすさを天秤にかけた結果である。当時、山根氏はトヨタグループの研究所に出向し、技術を持ち帰るプロジェクトを進めていた。簡単なシミュレーションでMIPが最もマッチすると判断し、まずはフリーのソルバー※4で実装を始めたという。

3〜4マシン程度の規模なら、フリーのソルバーでも問題なく解けた。ところがマシンと制約式を増やしていくと、状況は一変する。

「数兆次元の立体から最適解を探すような計算が必要となり、解けなくなった」。

複数のソルバーを試すなかで唯一最後まで解けたのがGurobi Optimizerであり、それが採用の決め手となった。注目すべきは、同社がコンサルティングを先に依頼したのではなく、研究所とともにモデルをある程度自前で組み上げ、「解けなくなったからGurobi Optimizerを採用した」という順序である。

※3 混合整数計画法(MIP):変数の一部が「整数」でなければならない最適化問題の解き方。「生産数を551個に」「型を替える/替えない」といった、小数で答えられない意思決定を扱うのに向く。

※4 ソルバー:最適化問題を計算で解くためのソフトウェア。Gurobi Optimizerもその一つ。


熟練者は「小数点」を見ていない──暗黙知を数式に翻訳する

最大の難所は、ベテランの判断を制約式と目的関数へ翻訳する作業だった。「熟練作業者へのヒアリングだけでは、定量化はできなかった」と山根氏は振り返る。聞き取った内容をリスト化し、フローチャートに落とし込み、まずアルゴリズムを組んで計算してみる。担当者に見せれば「合わない」と返ってくるので、なぜ合わないのかを一緒に考え、判明した観点を別の担当者にも改めてヒアリングする──。この往復をおよそ2年間繰り返して、ようやく制約を洗い出し、精度を高めていった。

目的関数では、複数の指標を同時に満たすために「ペナルティ」の考え方を導入した。在庫を持ちすぎればトヨタ生産方式に反し、置き場所を圧迫するなどのリスクがあるためペナルティを高めに設定する。一方で顧客に迷惑がかかる欠品には、さらに重いペナルティを科す。ここで山根氏は、社内でもよく驚かれるという事実を明かした。

「欠品は本来あってはならないものですが、数理最適化の世界では、欠品をある程度許容しないと解が出ないことは全く珍しくありません」。

同社では、おおむね4直※5(=2日)分を下回る在庫は禁止し、それ以上は許容したうえでペナルティを重くする手法を採っている。

それでも規模を大きくすると、再び解が出なくなった。原因を検証して行き着いたのが、本講演で最も示唆に富む発見だ。インタビューを重ねるうちに、熟練作業者の考え方が「連続的でない」とわかったのである。

「人間は、在庫が1.1直分あるか1.5直分あるかといった小数点を、そもそも見ていないし、見てもわかりません」。

にもかかわらずソルバーはその小数点にこだわり、局所解※6に落ち込んで改善が止まってしまう。一方で熟練者たちは、月に1,000時間をかけてでも解を出してきた。ならばソルバーも人間と同じく離散的に考えさせればよい──。そう発想を転換して離散化を導入したところ、計算は一気に速くなった。この手法は特許も出願済みだという。

※5 直(ちょく):工場の勤務シフトの単位。

※6 局所解:その周辺では一番良く見えるが、全体で見れば最善ではない答え。計算がここに引っかかると改善が止まる。


「63%削減」が生んだ余白と、“数字がみえる”ことの効果

成果は目標を上回った。アルゴリズムが最初の計画案を提示するようになった結果、立案工数は63%減を実証。熟練者の頭の中にあった暗黙知が定量化され、前任の熟練者から後任への交代も実現した。属人化が緩和されたのだ。かつては月末に残業前提で行われていた作業が定時内で終わり、さらに空いた時間を別の仕事に充てられるようになった。

興味深いのは、製造部門との電話対応で得られた効果だ。ソルバーの出す解が完璧というわけではない。それでも、これまで頭の中だけで応対していた担当者の前に、画面上の数字という共通の土台ができた。

「完璧な100点を出すのは難しい。けれど、手元で何らかの数字がみえると考えやすいんです」。

山根氏は、この“数字がみえる”ことこそ取り組みで得られた大きな効果の一つだと語った。若手でも生産計画を立案できる状態は、こうして現実のものとなりつつある。


導入の先に待つ「3つの壁」──「何を最適とするか」を決めるのは人間の役割

ここから山根氏の語り口は、成果報告から問題提起へと切り替わった。提示されたのは2026年現在の課題であり、いずれも「答えの出ていない問い」だという。この問いは、数理最適化をすでに活用している人にも、構築途中の人にも、検討中の人にも、数年後に必ず直面するテーマとして共有された。

第一の壁は、モデル管理そのものの属人化だ。Excel上のダイヤルで切り替えられる設定値は誰でも調整できる。しかし、その背後にある60項目ものパラメータの調整は「おそらく開発者である私にしかできない」。実験的に発見した係数も多く、論理的に説明できない部分すら残る。もっと単純な、forループのようなコードに踏み込める人材すら限られ、生成AIに期待は持てるものの、「数理最適化の知識や経験がないと、そもそもプロンプトが書けない」。属人化を防ぐために始めた取り組みが、いまや別のかたちで属人化しているという逆説が、率直に語られた。

第二の壁は、数理最適化技術の教育だ。生成AIを使えばある程度のチューニングはできるが、勘所がわからなければつまずく。生産管理の実務担当者であっても、システムを「使える」だけでは不十分で、エラーで止まったのか、計算上の解が見つからずに止まったのか、データに問題があるのかを区別できなければならない。保守レベルになると、パラメータを変えると結果がどう動くかを体感ではなく定量的に理解できるかが問われ、開発レベルでは「ビッグM法※7」のような概念にまで踏み込めるか──。最適化のスキルレベルもまた、連続的に積み上がるものではなさそうだ、と山根氏は指摘する。

第三の壁は、「何が最適かはわからない」という理解の壁である。製造業では、流体力学などに基づき物理的に答えが計算できる形状最適化※8と、数理最適化が混同されがちだ。だが生産計画は何が最適かが自明ではなく、目的関数を人間が決めなければ解は出ない。

「最適と言えば一番利益が出る計画を出してくれるのだろう、と言われることがありますが、評価する関数がなければ出せない。それは誰が決めるのですか、と問い返すことになる」。

数理最適化はあくまで意思決定を支援するものであり、ズバリの答えを出してはくれない。山根氏は、複数の経路案から自分の基準で選ぶ乗り換え検索を引き合いに、この感覚を社内へ伝えているという。社内事例を対話型で扱える仕組み(“Gurobot化”)を整え、よくある誤解を解きながら、「そもそも何が本当の制約なのか」を聞き出していく構想も語られた。

数理最適化は、魔法のように唯一の正解を差し出す装置ではない。予測はAIに、意思決定の構造化は最適化に委ねられても、「何を最適とするか」を決めるのは最後まで人間の役割である──。豊田自動織機の歩みは、技術の成果と同じだけの熱量で、その先に続く組織の課題を映し出していた。会場に投げかけられた「3つの問い」は、数理最適化に取り組むすべての企業への宿題でもある。

※7 ビッグM法(Big-M法):「ある条件を満たすときだけ制約を効かせる」といった場合分けを、十分に大きな定数Mを使って数式に組み込む技法。

※8 形状最適化:力学、熱、流体特性などの物理条件から、部品の最適な形状そのものを導く最適化。

お気軽にお問い合わせください

以下の中からお問い合わせしたい内容に最も合うものを選択して、お問い合わせフォームに必要事項をご入力ください。なお、営業目的のメールはご遠慮ください。

製品見積・購入関連

当社製品の価格・オプションについては、こちらより営業チームにご相談ください。

評価版ライセンス関連

当社製品の評価版ライセンスの申請については、こちらよりお申し込みください。

その他

当社製品に関するコンサルティングサービス、ライセンス更新関連、パートナープログラム等については、こちらよりお問い合せください。

当社製品に関するサポートは こちらをご覧ください。
取材やプレス関連のお問い合わせは marketing-japan@gurobi.com までご連絡ください。

Gurobiのニュースレターに登録して、最新情報を受け取りましょう。

ニュースレターにご登録いただくことで、当社のプライバシーポリシーに同意されたものとみなされます。

© Gurobi Optimization, LLC. All Rights Reserved.

お気軽にお問い合わせください

以下の中からお問い合わせしたい内容に最も合うものを選択して、お問い合わせフォームに必要事項をご入力ください。なお、営業目的のメールはご遠慮ください。

製品見積・購入関連

当社製品の価格・オプションについては、こちらより営業チームにご相談ください。

評価版ライセンス関連

当社製品の評価版ライセンスの申請については、こちらよりお申し込みください。

その他

当社製品に関するコンサルティングサービス、ライセンス更新関連、パートナープログラム等については、こちらよりお問い合せください。

当社製品に関するサポートは こちらをご覧ください。
取材やプレス関連のお問い合わせは marketing-japan@gurobi.com までご連絡ください。

Gurobiのニュースレターに登録して、最新情報を受け取りましょう。

ニュースレターにご登録いただくことで、当社のプライバシーポリシーに同意されたものとみなされます。

© Gurobi Optimization, LLC. All Rights Reserved.

お気軽にお問い合わせください

以下の中からお問い合わせしたい内容に最も合うものを選択して、お問い合わせフォームに必要事項をご入力ください。なお、営業目的のメールはご遠慮ください。

製品見積・購入関連

当社製品の価格・オプションについては、こちらより営業チームにご相談ください。

評価版ライセンス関連

当社製品の評価版ライセンスの申請については、こちらよりお申し込みください。

その他

当社製品に関するコンサルティングサービス、ライセンス更新関連、パートナープログラム等については、こちらよりお問い合せください。

当社製品に関するサポートは こちらをご覧ください。
取材やプレス関連のお問い合わせは marketing-japan@gurobi.com までご連絡ください。

Gurobiのニュースレターに登録して、最新情報を受け取りましょう。

ニュースレターにご登録いただくことで、当社のプライバシーポリシーに同意されたものとみなされます。

© Gurobi Optimization, LLC. All Rights Reserved.