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「現場の当たり前」を制約と目的に翻訳する ─ ヨックモッククレアが数理最適化で挑んだ生産計画改革と、年間600時間削減の舞台裏

Gurobi Connect 2026 in Fukuoka 講演レポート

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生成AIの隆盛を背景に、企業の関心は「予測」から一歩進み、現場の「意思決定」そのものをいかに高度化するかへと移りつつある。だが、複数の条件が複雑に絡み合う生産計画のような問題は、予測を得意とするAIだけでは解ききれない。ロングセラー「シガール®」で知られるヨックモックグループの製造中核・株式会社ヨックモッククレアは、長年、熟練担当者の知識と経験に依存してきた日別生産計画の立案業務を、数理最適化を用いたシステムによって刷新した。Gurobi Japanが主催したイベントに登壇した同社 生産管理部 係長の小野寺大地氏は、「私は数理最適化の専門家ではない」と前置きしたうえで、実務者の視点から改革の全容を語った。本レポートでは、年間約600時間の工数削減と計画リードタイムの大幅短縮を実現した取り組みの舞台裏を追う。



「シガール®」を支える、500種類・30ラインという複雑性

改革の中身に入る前に、まずは同社が扱う問題の「規模感」を押さえておきたい。

ヨックモッククレアは、クッキーを中心とした菓子製造を担う中核会社として、2010年に東京・今市・粟野の3工場が合併して設立された。現在は本社部門が日光・鹿沼・東京・湘南アトリエの4工場を統括する体制をとる。このうち湘南アトリエは昨年9月の合併で加わった生・半生菓子の工場であり、大量生産型の他3工場とは性格が異なる。そのため、今回数理最適化の対象となったのは、湘南アトリエを除く3工場である。

同社の主力工場である日光工場では、代表商品の「シガール®」をはじめ、シガール生地にチョコレートを注入したタイプ、ラングドシャ生地をチョコでサンドしたタイプ、生地を折りたたんだ「ビエタイプ」、「サブレタイプ」など、多様な菓子を生産している。その数、菓子の種類にして年間約150種類、数量にして約3億5,000万個。さらにギフトシーズンや季節・イベント・出荷先ごとに包材を変えるため、最終製品の種類は年間約500種類にのぼる。

生産は、生地の仕込から焼成、缶詰めまでを一連の工程として行う「ライン生産方式」を採用している。同社ではこの上流を「焼成ライン」、下流を「缶詰ライン」と呼ぶ。最大規模の日光工場は焼成9・缶詰11の計20ライン、鹿沼工場は焼成3・缶詰5、東京工場は焼成・缶詰それぞれ1ラインを持つ。しかも各工場は得意分野が異なり、日光は多品種、鹿沼はサンドやビエ・サブレ、東京はシガール専業という具合に役割が分かれている。詰め合わせ商品を完成させるには、工場間で半製品※を移動させる必要も生じる。

3工場・全30ライン・2シフト・500製品──。この掛け算が、後述する計画立案の膨大さの前提となっている。

※半製品:完成前の“途中まで作った製品”を別の工場へ渡すこと。ヨックモッククレアでは、詰め合わせ商品を作るために工場間でお菓子を移動させている。


熟練者に依存した「日別生産計画」、顕在化した3つの課題

同社が改革の対象としたのは、「いつ、どの工場の、どのラインで、何を何個生産するか」を定める“日別生産計画”の立案業務である。

この計画づくりが難しいのは、単に必要量を割り振れば済む話ではないからだ。小野寺氏は、生産能力・納期・在庫という「計画の3要素」を踏まえつつ、人・設備・材料・方法という「生産資源の4M」※を適切に組み合わせ、「適切な量を、適切な時期に、最も経済的に作る」ことが求められると説明する。さらに工場間・年間の負荷平準化や稼働の最大化まで考慮しなければならない。

厄介なのは、この計画が頻繁に変わることだ。上流の販売計画の見直し、生産予定と実績の差、在庫の増減など、さまざまな要因で計画は都度組み替えを迫られる。加えて、工場間の半製品供給が計画同士を相互に依存させていた。「日光工場の担当者が自工場にとって最良の計画を立てても、鹿沼や東京にとっては非効率だったり、そもそも対応できなかったりする」と小野寺氏。各工場に意思決定者が分散していたため、全工場の最適化には多大な工数が費やされていた。

小野寺 大地(おのでら・だいち)2016年ヨックモッククレア入社。製造現場での1年間の研修を経て品質管理課に配属され、製品の品質維持・向上に従事。その後、生産管理部へ異動し、生産計画の立案・需給調整、原価管理業務を担当。工場に向けた原価管理・分析の支援を通じて改善活動を推進する。本プロジェクトでは工場の生産管理担当と連携して暗黙知の可視化と要件定義を主導し、属人化していた生産計画立案業務の効率化・標準化を実現した。

小野寺 大地(おのでら・だいち)2016年ヨックモッククレア入社。製造現場での1年間の研修を経て品質管理課に配属され、製品の品質維持・向上に従事。その後、生産管理部へ異動し、生産計画の立案・需給調整、原価管理業務を担当。工場に向けた原価管理・分析の支援を通じて改善活動を推進する。本プロジェクトでは工場の生産管理担当と連携して暗黙知の可視化と要件定義を主導し、属人化していた生産計画立案業務の効率化・標準化を実現した。

小野寺 大地(おのでら・だいち)2016年ヨックモッククレア入社。製造現場での1年間の研修を経て品質管理課に配属され、製品の品質維持・向上に従事。その後、生産管理部へ異動し、生産計画の立案・需給調整、原価管理業務を担当。工場に向けた原価管理・分析の支援を通じて改善活動を推進する。本プロジェクトでは工場の生産管理担当と連携して暗黙知の可視化と要件定義を主導し、属人化していた生産計画立案業務の効率化・標準化を実現した。

膨大な計画を、高度な要求に応えながら、頻繁に変更し、全工場で最適化する──。それを同時にこなすには、担当者に豊富な知識と経験、そして膨大な時間が必要だった。ここから、同社は3つの課題を抱えることになる。属人化によって引き継ぎや後継者育成が困難になっていたこと。熟練者でも稀にミスが生じ、計画の中身が担当者以外に分からないというヒューマンエラーの問題。そして、優秀な人材が計画立案に忙殺され、本来注力すべき原価管理などの戦略業務にリソースを割けないというリソースの問題である。

とりわけ深刻だったのが3点目だ。物価上昇による製造コスト増を受け、会社として原価管理を強化したいにもかかわらず、そのキーマンが計画立案に時間を奪われていた。フォーム見直しや分業といった小手先の改善では根本解決に至らない。同社はシステム化による改革へと舵を切る。

※生産資源の4M:モノづくりに必要な4要素、Man(人)・Machine(設備)・Material(材料)・Method(方法)の頭文字。この4つをどう組み合わせるかが生産計画の土台になる。


パッケージソフトでは届かない要件、複数条件を同時に考慮できる数理最適化に活路

システム選定にあたり、同社は複数社と商談を重ね、「自社の要件を満たせるか」「狙った効果が得られるか」という視点で比較検討した。

すでに導入済みのExcelフォーム改善は、費用もかからず使い慣れているものの、大幅な改善は見込めない。完成された生産スケジューラーや生産管理システムも複数検討したが、同社の要件を満たすものはなく、満たそうとすれば複雑なカスタマイズや優先順位付けが必要で、結局は効率化につながらないと判断された。付き合いのあった開発会社に自社向け開発を打診しても、要件を満たすシステムは難しいという回答だったという。

そうしたなかで出会ったのがGurobi Japanであり、同社は数理最適化を用いたシステム開発を選定する。パッケージソフトと数理最適化の違いを、小野寺氏は現場に即した例で説明した。「50人の作業者で3つのラインを就業時間いっぱい動かしたい」というとき、パッケージソフトでは人数か時間のどちらかしか設定できないケースが多く、時間を優先すれば人が大量に余る、といった歪みが生じる。一方、数理最適化なら人数・時間・ラインといった複数条件を同時に考慮できる。「現場で実行可能な計画を、最初から作れるかどうか。そこがパッケージと数理最適化の違いだと考えた」と小野寺氏は振り返る。

もっとも、数理最適化の導入には専門的な知識とリソースが不可欠だ。当時も今も社内にその蓄積はなかったため、同社はGurobi Japanとプロジェクトを組む形で開発を進めることにした。


「当たり前」を制約と目的に翻訳する──要件定義という難所

開発は、約3か月の要件定義から始まった。コア要件のみを実装し範囲を絞ったPOC(概念実証)を約2か月かけて評価し、問題がないことを確認したうえで本番開発、並行稼働、本稼働へと進んだ。

要件定義で整理されたのが、必須条件である「制約条件」と、努力目標である「目的関数」の切り分けである。制約条件には、納期のあるものは必ず守る「納期遵守」、数量が確定しない製品を早期に作り始めないよう基準日まで作業を止める制約、メンテナンスでラインを停止させる制約、同じ設備を使う製品を同時間帯に生産させない制約などが含まれる。これらに反する計画は決して組まれない。目的関数はその上で、切り替えによる停止時間を減らす「切り替え時間の最小化」、段取り回数を減らす「切り替え回数の最小化」、同種の菓子をまとめて作る「同日組み合わせ」、日ごとの作業人員のばらつきをならす「人員平準化」などを追求する。必須の制約をすべて守りながら、できるだけ効率の良い計画を導く仕組みだ。

小野寺氏が「一番難しかった」と語ったのが、この要件定義である。「普段どういう手順で作業しているかをヒアリングするだけでは、まったく不十分だった」。詳しく聞けば聞くほど、「こういう時はこうする」というパターンが無限に出てくる。しかもその多くは「当たり前だから」と、ルール化も言語化もされていなかった。人が無意識に置いている“当たり前”のすべてを、制約なのか目的なのかに分けて明確に定義しなければ、システムは動いてくれない。「手作業とはアプローチがまったく異なることを理解したうえで、一つひとつをルールに落とし込む」作業こそが、最大の難所だったという。

完成したシステムは、Excelベースで入力データを作成し、Gurobiで日別生産計画を自動立案、結果も従来通りExcelで出力するという構成をとる。新商品やライン追加も入力データの変更だけで対応でき、メンテナンス性は高い。操作画面も、入力データの保管先を指定し、目的の重み付けと計画範囲を設定して計算を実行するというシンプルなものに仕上がった。


年間600時間の削減と、「3週間→2〜3日」というリードタイム短縮

導入がもたらした効果は、大きく二つに整理できる。日別生産計画の立案業務そのものの改革と、そこから生まれた戦略業務の活性化である。

前者では、本社生産管理部への集約による意思決定の迅速化、属人化を解消する作業の標準化、そして工場の計画担当者における年間約600時間の工数削減が実現した。システムを使った計画立案ではヒューマンエラーがなくなり、精度も向上している。なかでも小野寺氏が「最も大きい効果」と評価するのが柔軟性の向上だ。最も時間のかかる初回計画に、従来は2〜3週間を要していたが、導入後は2〜3日で作れるようになったという。

この短縮がもたらした変化は小さくない。以前は、途中で販売計画が大きく見直されても、計画を一から作り直す判断は現実的に下せなかった。それが、最新の販売状況を反映した計画立案を「当たり前に」行えるようになった。計画作成に費やしていた時間を原価管理などの戦略業務に振り向けられるようになったことが、システム化の最大の成果だと同社は位置づける。

担当者に求められるスキルも変わった。「人が一から作り上げる」スキルから、「出てきた結果を確認し、必要に応じて修正する」スキルへ。加えて、どういう結果を得たいかを描き、そのためにどんな条件を与えるべきかを考える入力データ設計の力が重要になっているという。


解が出ない時は問題を「小さくする」、そして人とシステムの役割分担

華々しい成果の一方で、小野寺氏は導入時の課題も率直に共有した。一つは前述の要件定義の難しさ、もう一つが「解が出ない場合」への対応である。

数理最適化では複数の目的・制約・変数が複雑に絡むため、問題が起きた際に原因を特定するのが難しい。「この日に生産してほしいとオーダーしたのに、その日が工場の休日に設定されていた」といった単純なものから、オーダー自体が就業時間内に収まらないものまで、原因はさまざまだ。同社はまず、Excelでオーダーを作る段階で制約同士の衝突を事前チェックし、防げるものは防ぐ仕組みを整えた。そのうえで最も効果的だったのが、「一旦、制約やオーダーを減らして問題を小さくしてみる」というアプローチだったという。問題を縮小すれば原因の在りかが見えやすくなる。そこから少しずつ条件を戻して再計算する。このトライ&エラーを繰り返し、エラーデータを蓄積していったことが、解が出ないケースを減らすことにつながった。

運用面でも学びがあった。実際に回してみると、生産直前の細かな調整は人の手のほうが早いケースが多い。直前の微調整までシステムに委ねると計算に時間がかかり、計画全体が組み替わってしまってかえって非効率だった。そこで現在は、最初の数回の大きな見直しはシステムで計算し、直前の細かな調整は人が担うハイブリッド運用に落ち着いている。「最初から完璧を目指しすぎず、人とシステムが協調しながら精度を上げていく」やり方が効果的だった、と小野寺氏は語る。ここには、AIや最適化を“魔法の箱”として扱うのではなく、人間の判断と役割分担させる現実解が示されている。


Excelソルバーで挑む「身近な最適化」、そして次の一手

講演の終盤、小野寺氏は「問題の規模はぐっと小さくなる」と断りつつ、現在取り組んでいるExcelソルバーを使った業務改善を紹介した。日別生産計画で得た考え方が活きた一例だという。

題材は「缶詰ラインの能力設定」である。缶詰ラインは、菓子を詰める工程から最終製品に仕上げるまでの一連の工程からなり、一つのラインに10〜20数名が張り付く。能力設定とは、ライン速度である「ストローク」と各工程の配置人数を決める業務で、その組み合わせが直接原価を左右する。速く多く作ればよいのではなく、各工程で手待ちやムラが出ない“みんなが満遍なく忙しい”バランス点を見つけることが肝要だ。従来これはライン責任者一人ひとりの経験、いわば暗黙知に依存し、標準化も根拠の説明もできていなかった。

そこで同社は、まず全作業を分解して「作業ごとの標準時間」を設定した。シガール®を2本詰めるのに何秒、緩衝材を詰めるのに何秒、カートンを組むのに何秒──と、動作ごとに時間を割り振る。そのうえでExcelの簡易フォームで入力条件を統一し、ストロークを変数、原価の最小化を目的関数、配置可能人数などを制約として計算する。「経験や勘を制約条件として整理し、計算できる形に落とし込む。考え方は日別生産計画とまったく同じ」だと小野寺氏は言う。結果として、能力設定業務は誰もが同じ前提で議論できる形に標準化され、説明可能な形での原価低減にもつながった。数理最適化は大規模システムだけでなく、身近な業務改善にも使える技術である──それが、この事例に込められたメッセージだ。

今後について、同社は前工程である月別生産計画や、現場当日の時間帯別人員配置業務への展開を視野に入れる。小野寺氏は講演をこう締めくくった。「弊社は数理最適化によって、業務効率・精度・柔軟性の向上と属人化の解消を達成し、そこで生まれたリソースを原価管理など利益に直結する業務に充てられるようになった。数理最適化は、複雑な意思決定や効率向上を図る強力なツールだ。ぜひ皆さんも社内での活用を検討してほしい」。

予測はAIに委ね、意思決定は最適化で解く──。熟練の勘を「制約」と「目的」に翻訳し、人とシステムが役割を分け合うヨックモッククレアの取り組みは、AI時代における「意思決定の自動化」の一つの実装像を、菓子工場という身近な現場から指し示している。

※「シガール」は株式会社ヨックモックホールディングスの登録商標です。

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