1969年創業のヨックモック・グループの中核として、年間3億5,000万個ものお菓子を製造する株式会社ヨックモッククレア。3工場・30ライン・最終製品500種類にもおよぶ日別生産計画は、長らく各工場の熟練担当者一人ひとりの経験と勘に支えられてきました。
属人化と高齢化が進むなか、同社が選んだのは、「人をリプレイスする効率化」ではなく、「熟練を後継者育成に進化させるための最適化」でした。本記事では、取り組みを牽引された統括部 統括部長の正田淳也様、生産管理部 係長の小野寺大地様、そして開発を支えたGurobi Japanコンサルタントの乾より、現場の不安をどう乗り越え、人とシステムの協働をどう築いていったかを伺いました。
◎お話を伺った方
正田 淳也 様 株式会社ヨックモッククレア 統括部 統括部長 兼 生産管理部 部長
小野寺 大地 様 株式会社ヨックモッククレア 生産管理部 係長
乾 伸雄 株式会社Gurobi Japan コンサルタント
◎本記事のポイント
熟練担当者をリプレイスせず、彼らを後継者育成役へ進化させるための、人的投資としての最適化導入
既存パッケージでは届かなかった「現場の7、8、9」を満たす、Gurobi基盤の自社開発という選択
「解が出ない」「これじゃダメだ」を一つずつ乗り越えた、現場とGurobi Japanの地道なすり合わせ
人とシステムの協働を前提に、収益基盤としての製造現場の次のフェーズへ
製造課から品質管理を経て、生産管理へ——「数理」とはまったく縁がなかった二人
――まず、お二人のご経歴と現在のご担当業務について教えてください。
小野寺様:私は新卒でヨックモッククレアに入社し、まず製造課で約1年間、現場研修を経験しました。その後、工場の品質管理に配属され、製品の品質維持・向上の業務に従事してきました。これらの経験で製造ラインの動きや製造の制約条件への理解が深まったことが、現在の生産管理の業務に生きていると感じています。現在は、生産計画の立案・調整業務、原価管理、そして本日お話しする日別生産計画システムの導入・運用などを担当しています。
――数理最適化は、もともと学問として学ばれていたのですか?
小野寺様:いえ、まったく。大学は農学系で、数学や数理最適化を学ぶ機会はまったくありませんでした。今回このシステムを入れるにあたって、少しだけロジックを頭に入れたくらいですね。
正田様:私も実は6年前に生産管理に異動してくるまでは、販売会社やホールディングスに所属しており、生産とはまったく異なる業務に携わっていました。そのため、生産管理に異動した当初は、生産現場を知るところから始まりました。そして昨年の10月からは、今度は「生産全体を見てくれ」と新たな役割を任され、生産全体を統括する立場になりました。さらに、昨年9月には生・半生菓子を主力とする工場が加わり、現在はそのすべてを管理しています。限られた時間の中で各工場を回り、従業員とコミュニケーションを取ることを大切にしています。トップが足を運ぶことで適度な緊張感が生まれ、より良い職場づくりにもつながると感じています。

(左)正田 淳也(しょうだ・じゅんや)販売会社およびホールディングスでの勤務を経て、6年前にヨックモッククレアの生産管理部門へ異動。工場の運営改善に携わり、本プロジェクトの立ち上げを牽引。2025年10月より統括部 統括部長 兼 生産管理部 部長として生産全体を統括し、4工場の合併後の生産体制の再構築に取り組む。「収益の基盤は製造にある」との信念のもと、人とシステムの協働による現場変革を推進している。
(右)小野寺 大地(おのでら・だいち)2016年ヨックモッククレア入社。製造現場での1年間の研修を経て品質管理課に配属され、製品の品質維持・向上に従事。その後、生産管理部へ異動し、生産計画の立案・需給調整、原価管理業務を担当。工場に向けた原価管理・分析の支援を通じて改善活動を推進する。本プロジェクトでは工場の生産管理担当と連携して暗黙知の可視化と要件定義を主導し、属人化していた生産計画立案業務の効率化・標準化を実現した。
システム化の第一歩は、現場担当者の脳みその中身を見せてもらうところから
――日別生産計画とは、具体的にどのような業務なのでしょうか。
小野寺様:日別生産計画とは、販売計画に基づいて生産管理部で算出した月別・工場別・アイテム別の生産数量を、実際に現場で実行可能な粒度まで落とし込んだ計画を指します。具体的には、「いつ、どのラインで、何を、どれくらい生産するか」を明確にした予定表を作成する業務です。単なる数量配分ではなく、現場の設備制約、人員制約など諸々を考慮した上で立てていく必要があり、従来は各工場に1名配置された担当者が一貫して計画を作成していました。
――その「人が立てた計画」を、システム化するうえで、どこから手をつけられたのでしょうか。
小野寺様:当時、生産管理部は、工場でどのような考え方で生産計画が立てられているのかを、十分に把握できていませんでした。まずは、各工場がどのような考え方で予定を組み、それが本当に効率的なのかを理解するところから始めました。それがシステム化に向けた最初のステップでした。
正田様:要するに、現場の担当者の脳みその中身を見せてもらった、ということなんです。「なぜこのやり方なのか」を一つひとつ確認していくと、その背景にはさまざまな前提や理由があることが分かってきます。それを小野寺と、うちの安齋※が丁寧に聞き出してくれました。ある意味、現場の知識やノウハウを棚卸しできたような感覚ですね。
※安齋博輝氏:生産管理部(参考記事)https://logmi.jp/brandtopics/331134
小野寺様:ただ、単に訊くだけでは見えてこない暗黙知もたくさんありました。なので、自分自身でも業務を覚えながら計画を立て、工場の担当者が立てた計画と自分が立てた計画でどこが違うのかを1つひとつ確認していきました。
正田様:「目で見て盗め」って、まあ、昭和かと思いましたから(笑)。あのタイミングで言語化できたのは本当に良かったと思っています。
「君らの仕事を取るわけじゃない」——現場を動かした、ひとことの哲学
――数理最適化を導入される際、現場からの反発のような声はありませんでしたか?
正田様:実は、反発はそれほどなかったんです。これを導入する決め手になったのが、生産計画の担当者が1日のほとんどをその業務に費やしていたということなんですね。当初は、週1回の調整業務を行うだけだと思っていたんですが、実際には日々いろんな条件が変わってきますので、担当者はずっと(計画を)作っているんですよ。業務負荷もそこに集中していて、高齢化も進んでいましたし、各工場とも担当者が1人しかいないという属人化の問題もありましたので、これは何とかしなきゃいけない、と強く感じたんです。
それから、コロナ禍を経て収益改善が求められる中で、原価管理にも十分に手が回っていませんでした。このままでは、「この仕事のサイズ、絶対入っていかないな」と思ったんです。
それで、担当ともすごく話しました。「君らの仕事を取るわけじゃない。君らを楽にして、違うことをやってほしいんだ」、「コンピューターにできることはコンピューターにやってもらって、もっとクリエイティブな仕事をしてくれ」と。現場もそうした考えを理解してくれ、それほど反発もありませんでした。私の言葉も半分くらいしか信じていなかったとは思うんですが(笑)、すごく協力的に取り組んでくれましたね。
――反発はなかったとして、開発過程で別の不安が生まれた時期もあったと伺いました。
小野寺様:はい。反発はなかったんですけど、開発過程でシステムが作成した計画を見た現場から、「ちょっとこんなんじゃ全然ダメだよ」とか「このままでは運用できない」という声が上がり、不安が大きくなった時期はありましたね。そこは1つずつ原因を確認し、人が立てた計画との差を丁寧に検証しながら精度を上げていった、そこに尽きると思います。

既存パッケージでは届かなかった、現場の「7、8、9」
――他社のサービスやパッケージとの比較検討もされたと思うのですが、最終的にGurobiを選ばれたきっかけは。
小野寺様:最初はExcelファイルの改善から始めたんですが、それでは到底対応できないと、早々にわかりました。次に、既存の生産管理システムやスケジューラーパッケージも検討したんですが、私たちの目的は「現場で人が立てている生産計画を再現し、置き換えること」でした。その要件を満たせるものは探した限り見つからなかったんです。
正田様:弊社で導入しているERPでも生産計画機能を持っているんですが、うちのやりたいことに、パッケージがハマらないんですね。それは他のパッケージ製品でも同様でした。例えば、うちが10やりたいとすると、このパッケージだと4、こっちのパッケージだと6。なかなか7、8、9まで上がってくるものがなくて。
そう探しているときに、うちの管理部が人材育成のスキルマップ作成の件で、一度オクトーバー・スカイ社(現Gurobi Japan)さんとお話していたご縁を思い出して、相談したんです。当時の代表の和多田さんに来ていただいて話を聞いたとき、「これいけるんじゃないか」と感じましたね。
――「いける」と感じられた決め手は何だったのでしょうか。
正田様:まず、私たちが抱えている課題を全部話したんですよ。そうしたら「その課題であれば、このような考え方で解決できます」「こういうアプローチができます」と、具体的な方法まで含めて提案していただけたんです。単純な「できますよ」じゃなくて、私たちの課題を理解したうえで解決策を示してもらえたので、「これは、ちょっと組んでやらせていただくと面白いかな」と感じました。そのとき、うちのメンバーの安齋や小野寺も前向きな反応でしたので、「それなら一歩踏み出してみよう」と導入を決断しました。
「解が出ない」を乗り越えた先に見えた、人とシステムの協働
――開発・運用の過程で、これが一番の壁だったというハードルはありましたか?
小野寺様:それはやはり「解が出ない」ことでした(笑)。本番開発中もそうですし、納品後の運用でも、解が出ないケースが度々発生しました。そのたびに原因を整理し、「どのような条件でどのようなエラーが発生するのか」を検証しながら改善を重ねていきました。その経験が蓄積されたことで、結果をイメージしながらオーダーデータの作成や制約条件の設定ができるようになっていったんです。属人化の解消を目指していた一方で、運用する側にはシステムを理解し、使いこなすための専門的な知識やスキルが必要になりましたが、そこを乗り越えられたことが大きな転換点だったと思います。

正田様:大きな壁としては2回あって、1つは担当者の経験知識を言語化するところ。ここは相当苦労しました。Gurobi Japanの杖田さんに相当手伝っていただきましたね。もう1つは、今、小野寺が申し上げた、納品されたシステムを安定して動かすところ。思うようになかなか動かない、という時期もありました(笑)。
――乾様、技術的にはどうアプローチされたのですか?
乾:最初は杖田が話を聞き、その現象を見て、例えば「解が求まらない」のは、本質的に解が求まらない設定になっているのか、それとも時間的に解が求まらないのか、その切り分けが必要なんです。
どの業務プロセス改善においても、完全自動化というのは、パッケージソフトでできる、というレベルでしか実現しないと思います。それをいかに人が見ながら最適化を求めていくか、というところは、引き続き人の力が必要だと思っています。
正田様:今は、大枠となる生産計画はシステムに出してもらって、細かい修正は担当がやる、という形で運用しています。人とシステムの協働ですよね。それぞれ得意分野を活かしながら活用しています。
制約の「意味」を、世代を超えて渡していく
――人材育成・組織変革の面では、どんな変化が生まれていますか?
正田様:これからかな、とは思っています。うちは一時期採用を止めていた期間がありまして、社員の構成がいわゆる「つぼ型」になっています。40代の社員が少なく、ベテランが持つ技術やノウハウを次の世代へどう引き継ぐかが、大きな課題です。
ただ、今回システム化したことで、将来にわたっての持続性、再現性はシステムで担保ができました。一方で、僕らが語り継いでいかなきゃいけないのは「なぜこういう制約になっているか」という、制約の理由ですね。
制約条件だけを引き継いでも、その意味が分からなければ、いずれシステムはブラックボックス化してしまいます。これから生産技術の進歩や技術革新によって生産ラインや生産方式が大きく変わることもあるでしょう。そのときに「この制約はこういう目的で設定されている」とわかっていれば、あとは必要な部分だけを見直しながら、システムを継続的に活用していけると考えています。
小野寺様:現在は、日別生産計画の立案を私が中心になって担当し、作成した計画を各工場へ展開して運用しています。ただ、この業務も今後は次の世代に引き継いでいかなければなりません。仕組みだけでなく、運用ノウハウも含めて継承していくことが、今後の課題ですね。
「収益を作るのは工場」——次は標準原価管理、そして人員配置の最適化へ
――正田様、「やりたいことがいっぱいある」と伺いました。次のフェーズで、どんなことにチャレンジしていきたいですか?
正田様:これ、いま言語化すると全部、中期計画に書かないといけなくなるのですが(笑)。これからメーカーにとって最も重要なのは、製造力をさらに高めていくことだと思うんですね。収益の基盤は全部ここにある。売上は営業が作りますけど、利益は工場が、製造が作るものだと思っていますので。
その中で目指したいのは、単なる省人化ではありません。人と機械、そしてシステム、それぞれの得意分野を活かしながら役割を分担し、人にしかできない仕事により多くの時間を使える環境をつくっていきたいと考えています。その先には、生産企画や原価企画の高度化があります。今取り組んでいる原価管理も、もう2歩、3歩踏み込んで、標準原価管理のレベルまで高めていきたいですね。
ただ、その前提として絶対に譲れないのが、お菓子の安全と人の安全、それから品質です。この安全・品質をきちんと確保し、安定した生産体制を築くこと。それがあって初めて効率化に取り組むべきだと、従業員にも伝えています。効率化だけを目指すと、安全や品質を支えている重要な工程まで削ってしまう恐れがあります。だからこそ、「安全、品質、安定生産」を最優先に、その上で効率化を進め、製造として収益を上げていかなければなりません。
――AIの活用についてはお考えがありますか?
小野寺様:そうですね、まだ具体的な活用イメージが固まっているわけではありませんが、AIをどのように業務へ取り入れていくかは、今後の大きなテーマだと考えています。
正田様:例えば、AIを活用することで、「そこまで大きく計画を組み替えなくても対応できるのではないか」といった判断や、これまでとは異なる視点で計画を支援してもらえる可能性があると思っています。また、生産計画だけでなく、人員配置まで含めて最適化するような仕組みも、今後検討していきたいです。システムに置き換えられる定型的な業務はできるだけシステムに任せ、その分人間にしかできないクリエイティブなところに、現場のリソースをシフトしていきたいと考えています。
「鉛筆を舐めて」計画を立てている、すべての企業へ
――最後に、Gurobiの数理最適化を、こういう企業ならぜひ使ってほしいと思われる、そんなメッセージをお願いします。
正田様:まさに当社がそうだったように、どこの企業さんも、ベテランの熟練の生産管理担当者が、1人で鉛筆を舐めてやっていると思うんですよ。そして今、ちょうど世代交代の時期を迎えていると思うんですね。私たちにとって数理最適化は、その経験や知識を仕組みとして残し、継承していくために有効な手段でした。そんなときにGurobi Japanに出会えて良かったと思ってます。同じような境遇にある企業の皆さまには、ぜひ数理最適化という選択肢を検討してみて欲しいと思います。
ヨックモッククレア様の取り組みは、属人化と高齢化の進む現場に「人をリプレイスする効率化」ではなく、「熟練を次世代に渡すための最適化」というアプローチで臨まれた、製造業のデジタル変革の好事例といえます。「君らの仕事を取るわけじゃない」というひとことから始まった現場との対話、「目で見て盗め」では続かない熟練技の言語化、既存パッケージでは届かなかった「7、8、9」を満たすGurobi基盤の自社開発、そして「解が出ない」を一つひとつ乗り越えた地道なすり合わせ。一連のプロセスを通じて、同社は「人とシステムの協働」という、製造業の新しい働き方の基盤を築かれました。
「鉛筆を舐めて」生産計画を立てている——同じ景色をご覧になっている製造業の経営者・現場責任者の皆様にとって、本事例が「もう一歩進む」きっかけとなれば幸いです。
Gurobi Japan では、本事例のような日別生産計画の最適化をはじめ、製造業における配合・配送・人員配置・在庫最適化など、さまざまな経営課題に対するコンサルティングサービスをご提供しています。「うちでも同じことができるだろうか」「何から始めたらよいかわからない」という段階のご相談から、まずはお気軽にお問い合わせください。

