Gurobi Connect 2026 in Fukuoka 講演レポート
福岡で開催された「Gurobi Connect 2026 in Fukuoka」。本記事では、株式会社Gurobi Japan 最適化コンサルティング シニアマネージャー 乾伸雄氏による講演「GurobiとAI」の模様をお届けする。生成AIによる画像生成を入り口に数理最適化の仕組みをやさしく解き明かし、今年7月に公開されたばかりのAI機能群「Gurobi Intelligence Hub」へ。AIが最適化のどこを担い、人間には何が残るのか──。技術の進化と、その先にある役割分担が語られた。
福岡のラーメンと明太子で読み解く、数理最適化の「メカニズム」
講演は、一枚のイラストから始まった。スクリーンに映されたのは、ラーメンや明太子といった福岡名物が描かれた絵。生成AI「Copilot」に「福岡の名物のイラストにしてください」と指示して作ったものだという。乾氏は、この何気ない絵の生成すら「数理最適化のモデルで表現できる」と切り出した。

たとえば、福岡のラーメンひとつとっても、博多・長浜・久留米と系統がいくつもある。明太子にも複数のブランドがあり、水炊きにも店舗や種類がある。イラストを作るとき、私たちは無意識に「同じジャンルのものは重ねたくない」と考えながら選ぶ。乾氏によれば、こうした人間の思考は数理モデルとして素直に書き下せる。
具体的には、まず「地元の人が知っているか」「知名度や歴史があるか」といった評価尺度で候補を測る。次に、博多・長浜・久留米のような同系統のものは「同時に2つ以上選ばない(合計で1以下)」という条件を、0か1の値をとる変数で制約式として記述する。そして「博多ラーメンとふくやの明太子がセットなら満足度+100」といった相性や好みは、目的関数に組み込んで最大化する。
最適化を実行すると、「博多ラーメン」「ふくやの明太子」「やま中の水炊き」といった最適な組み合わせが答えとして出てくる──。乾氏はこの身近な例を通じて、数理最適化とは「評価尺度・制約・目的」を数式に翻訳し、最良の組み合わせを導く技術であることを、平易に印象づけた。
2008年から「92倍」へ──進化を続けるGurobiの歩み
続いて乾氏は、Gurobiそのものの歩みを振り返った。最初のバージョンがリリースされたのは2008年。当初の4年間ほどは、線形計画問題(LP)と混合整数計画問題(MIP)の2つに対応していた。

その後、2次計画問題(QP/QCP)への対応が進み、サイン関数や累乗関数といった非線形計画問題も扱えるようになる。さらに、マルチスレッドによる並列計算、多目的関数やマルチシナリオ、並列分散最適化といった機能が加わり、スケーラビリティの向上によって大規模問題やクラウドにも対応してきた。近年はデシジョン・インテリジェンス(AIモデリングやCopilot機能)へと踏み込み、直近ではGPU向けのLPアルゴリズム「PDLP」も実装している。
こうした改良の積み重ねは、速度に如実に表れている。バージョン1と最新バージョンを比較すると、平均して約92倍の高速化。乾氏は「バージョン1では92秒かかっていた計算が、今では1秒程度で解けるレベルになっている」と、その進化ぶりを具体的な数字で示した。
AIは最適化プロジェクトをどう支えるか──「Gurobi Intelligence Hub」の全貌

講演の中心に据えられたのが、今年7月に公開されたばかりのAI機能群「Gurobi Intelligence Hub」だ。乾氏はまず、最適化プロジェクトの一般的な流れを整理した。「問題の分析・定式化」から始まり、「データ準備」「プログラミング・モデル改善・パラメーターチューニング」、そして「実行不能(Infeasible)の分析」へ。このサイクルを繰り返しながら、実運用に耐えるモデルへと磨き上げていく。

AIが担う領域、人間に残る役割
このサイクルの各所を、AIが支援できるようになってきた。定式化やモデリングの分析支援、機械学習を用いた将来予測によるデータ準備、生成AIによるプログラミングコードの生成・改善提案、そして実行不能に陥った原因の分析と修正案の提示──。乾氏はAIの守備範囲が着実に広がっていることを示した。
一方で乾氏が強調したのは、AIが進化しても人間に残る役割があることだった。AIとの対話や指摘、対象領域を理解するドメイン知識、将来の計画や展望の考慮、そして最終的に導かれた解を定量・定性の両面から評価すること。これらは依然として人間が担う重要な部分だと位置づけた。AIは最適化を強力に後押しするが、何を解くべきか、その解が納得できるものかを見極めるのは人間である──という役割分担が、明快に描かれた。

Gurobot・Explainer・Modeler──3つのAI機能
Gurobi Intelligence Hubは、これまで提供されてきたナレッジベース回答ボット「Gurobot(グロボット)」に、新たな2つの機能を加えるものだ。

Gurobotは、Gurobiの技術資料やナレッジベースを学習したチャットボットで、ライセンスの問い合わせやコードの提示、ドキュメントへのリンク案内を行う。実演では、「コンテナで使えるライセンスは?」という質問に対し、WLSライセンスやクラウドライセンスである旨を、根拠となるリンク付きで回答してみせた。

新機能の「Explainer(説明AI)」は、専門知識や過去事例を学習し、モデルが実行不能になった際の原因分析と解決策を提示する。乾氏がナップザック問題のサンプルコードと実行不能ファイルを読み込ませると、Explainerは問題のタイプを判定したうえで「体積制約と価格制約が矛盾している」と指摘。「上限を上げる」「最低価格を下げる」といった具体的な解決案を3パターン提示した。

もうひとつの「Modeler(モデラー)」は、対話形式で問題の定義や要件定義を行い、Pythonによる本番運用コードの生成までを自動化する(現在ベータ版)。

「単線区間の電車時刻表の作成」という複雑な定式化では、Modeler側から「出発時刻に制約はありますか?」といった質問を選択式で投げかけ、対話を重ねながら、最終的に要件仕様書と実行可能なPythonコードを出力してみせた。

知られざるGurobiの実力──代表機能をふりかえる
講演の締めくくりに、乾氏は「Gurobiを使っている人でも意外と使ったことがないかもしれない」代表的な機能を紹介した。
「ソリューションプール」は、単一の最適解だけでなく、計算の途中で見つかった複数の実行可能解や、目的関数が良い順に指定した数の解を保存・比較できる機能だ。「マルチシナリオ」は、1回の最適化実行のなかで、制約や目的関数を少しずつ変えた複数のシナリオを同時に解く。前処理や切除平面の生成を共有できるため、実行時間を大幅に削減できるという。同様に複数の目的関数を1回の実行で扱う「多目的関数」も、前処理を共有して効率化する。
とりわけ乾氏が挙げたのが、AIと最適化の橋渡しとなる「Gurobi Machine Learning」だ。scikit-learnやPyTorchなどで学習させたニューラルネットワークや回帰モデルを、そのままGurobiの数理モデルの「制約」として直接組み込める。学習済みの予測モデルを、意思決定の制約条件として最適化に取り込めるわけだ。

このほか、モデルに応じて最速の計算速度が出るパラメーターを自動探索する「自動パラメーターチューニング」、分枝限定法で解がなかなか改善しないときに有効な「NoRelヒューリスティック」も紹介された。後者は厳密な最適性こそ保証しないものの、スケジューリング問題などで短時間に非常に良い解を見つけられるという。
福岡名物のイラストから始まり、AIとの役割分担、そして多彩な機能まで──。乾氏の講演は、数理最適化が決して縁遠い技術ではなく、AIの力を借りながら人間の意思決定を支える実用的な道具であることを、あらためて浮かび上がらせるものだった。「Gurobi Intelligence Hub」が、定式化やコード化といった専門家の領域を肩代わりし、最適化の入り口を大きく広げていく。数理最適化を一部の専門家の手から解き放ち、「誰もが意思決定に使える道具」へと近づける——。「Gurobi Connect 2026 in Fukuoka」で示されたのは、その確かな一歩だった。

