航空機の運航は、いったんダイヤが決まれば、その通りに淡々と進んでいく——。
多くの人は、そう思っているかもしれません。しかし実際の現場では、天候や遅延、整備状況など、日々変化する条件に応じて「どの飛行機を、どの便に割り当てるか」が毎日のように見直されています。
今回取り上げるのは、年間7,700万人以上の乗客数を誇るエールフランス航空が数理最適化を用いて、この「機体割り当て(Tail Assignment)」に取り組んだ事例です。一見すると地味に見えるテーマですが、燃料費の削減や遅延の抑制、現場の意思決定の質向上など、経営や働き方に大きなインパクトをもたらしました。
本連載では、Gurobiの国内/海外事例を題材に、大学生・Aくんが素朴な疑問を投げかけます。それに対し、Gurobi Japanの数理最適化コンサルタント・乾伸雄さんが「数理最適化がビジネスの現場でどう役立っているのか」を分かりやすく解説します。
なぜ航空業界では、毎日“最適化”が必要なのか
Aくん
今回取り上げるのは、エールフランス航空が、数理最適化を使って「どの飛行機を、どの便に割り当てるか」という問題に取り組んだ事例です。
航空業界と聞くと、飛行機やパイロット、空港といった華やかなイメージが先に浮かびますが、実はその裏側で、非常に緻密な意思決定が日々行われているということを、今回の事例記事「AIR FRANCE:Building the Most Efficient Tail Assignment Schedule」から学びます。
乾さん、航空業界って、もともと数理最適化と相性が良い業界なのかな、と感じました。
乾さん
そうですね。実は航空業界は、最適化の導入にとても積極的な業界なんです。AGIFORS(Airline Group of the International Federation of Operational Research Society)という、航空業界に特化したオペレーションズ・リサーチの国際学会があるくらいです。
Aくん
学会がある、というのはすごいですね。
乾さん
はい。そこでは、今回のような機体割り当てだけでなく、乗務員のスケジューリング、空港での地上作業、ネットワーク設計など、さまざまな最適化問題が議論されています。それだけ、航空会社の運営は「複雑な意思決定の塊」だということでもあります。
Aくん
利用者の立場だと、ダイヤが決まっていれば、あとは淡々と運航しているように見えます。
乾さん
多くの方がそう思われると思います。実はそこが、この事例の面白いところなんです。航空業界では、ダイヤ自体は事前に決まっていますが、「どの機体(テイル)を、どの便に割り当てるか」は、日々の状況に応じて調整されています。
Aくん
毎日、割り当てを変えているんですか?
乾さん
はい。天候、遅延、整備状況などによって、前日に立てた計画をそのまま使えないことは珍しくありません。だからこそ、短時間で、しかも間違いのないスケジュールを作る必要があります。こうした現場は、数理最適化が非常に力を発揮する領域です。
「飛行機の割り当て」だけで、経営は本当に変わるのか?
Aくん
記事を読んで驚いたのは、「飛行機の割り当てを最適化するだけで、そんなに経営に効くのか?」という点でした。
乾さん
航空会社にとって、燃料費は非常に大きなコストです。一説では、運航コスト全体の3割を占めるとも言われています。
Aくん
3割も、ですか。
乾さん
はい。しかも燃料消費は、機体の個体差や運航の組み合わせによっても変わります。例えば、整備のために別の空港へ機体を回送すると、その分の燃料費や人件費が発生します。こうした「割り当て方」だけで生まれる無駄を減らせれば、運航の仕組み自体を変えなくても、利益に大きく貢献できるのです。
航空会社の運航計画に潜む、見えない複雑さ―Tail Assignmentとは
Aくん
航空会社の運航計画って、改めて聞くと本当に複雑ですね。
乾さん
ええ。まず大前提として、安全運航のために定期的な整備が必須です。整備は特定の整備場で行う必要があるため、機体の位置も考慮しなければなりません。
Aくん
整備のために移動させるだけでもコストがかかる、と。
乾さん
その通りです。一方で、すべての便には必ず機体を割り当てる必要があります。さらに、乗務員が扱える機体の制約、予約状況、機体ごとの燃費特性など、考慮すべき条件は非常に多い。
Aくん
遅延の影響もありますよね。
乾さん
はい。特に長距離便は遅延が発生しやすく、その後に短い間隔で次の便に割り当てると、遅延が連鎖しやすくなります。こうした「遅延の伝搬」を抑えることも、機体割り当てでは重要なテーマです。
Aくん
こうして聞くと、「Tail Assignment(機体割り当て)」は、単なるスケジュール作成ではないんですね。
乾さん
そうですね。数理最適化の分類で言うと、これは「割当問題」にあたります。人を仕事に割り当てる問題に似ていますが、航空機の場合は「次にどの便に割り当てるか」まで同時に決める必要があるため、組合せが爆発的に増えます。
Aくん
人が手作業でやるのは、かなり厳しそうです。
乾さん
その通りです。数百機の機体を、数千の便に割り当てる中で、条件を満たし、なおかつ費用が低い解を探すのは至難の業です。熟練者の経験は非常に価値がありますが、それでも「本当に最適か」は分かりませんし、属人化やヒューマンエラーの問題も残ります。
燃料費1%削減が持つ、本当のインパクト
Aくん
そこでGurobiが使われた、ということですね。
乾さん
はい。Gurobiを使う上で難しいのは、制約そのものよりも「費用をどう定義するか」です。燃料費、遅延による影響、回送コストなどを、現実に即した形で数値化する必要があります。
Aくん
データが重要なんですね。
乾さん
非常に重要です。間違ったデータから導かれた最適解は、正しいとは言えません。Air Franceの技術者たちは、ここを慎重に作り込みました。
Aくん
結果として、燃料費を1%削減できた、とありました。
乾さん
はい。1%と聞くと小さく感じるかもしれませんが、Air Franceが1年間に使う燃料費は数十億ユーロ規模です。その1%は、非常に大きな金額になります。
Aくん
しかも、遅延削減や現場の負担軽減といった副次的な効果もありますよね。
乾さん
ええ。Gurobiが短時間で正確なスケジュールを作れるようになったことで、現場の方はトラブル対応に追われ続ける状態から解放されます。その結果、より創造的な改善活動に時間を使えるようになります。
「遅れそうだから機体を変える」は、本当に簡単か?
Aくん
ここまで話を聞いていて、素朴な疑問が出てきました。「遅れそうだから、別の機体に変える」それだけでも、現場はかなり混乱しそうですよね。
乾さん
実際、その通りです。選択肢としては「機体を変える」か「遅延を許容する」かですが、どちらを選んでも影響は出ます。
Aくん
最も混乱を抑える方法を、どうやって見つけるんでしょうか。
乾さん
重要なのは、あらかじめ「こういう事態が起きたら、こうする」という条件をモデルに組み込んでおくことです。ただし、すべてのケースを事前に想定するのは難しい。
Aくん
現実は、常に想定外が起きますよね。
乾さん
Gurobiは複数の解を出すこともできます。最終的に人が見て「一番現場に合う解」を選ぶことで、混乱を抑えることができます。つまり、Gurobiは“意思決定を置き換える”のではなく、“支える道具”なのです。
「これはどの問題か?」と考えられるようになることの価値―割当問題・順序問題という“見取り図”
Aくん
この話を聞いていると、航空業界だけの話ではない気がしてきました。
乾さん
まさにその通りです。配送計画、製造ラインの割り当て、スタッフ配置、発電計画など、構造としては似た問題が多く存在します。
Aくん
問題を「割当問題」「順序問題」といった形で捉えられるようになると、見え方が変わりそうですね。
乾さん
はい。自分たちの課題がどの問題構造に当てはまるのかを整理できれば、数理最適化を現実的な選択肢として検討できるようになります。
数理最適化は、不安を「考えられる未来」に変える
Aくん
最後に、この記事を読むビジネスパーソンへのメッセージをお願いします。
乾さん
数理最適化は流行りの手法ではなく、長い歴史と実績を持つ考え方です。Gurobiのようなソルバーの登場で、今は誰でも現実の業務に使える時代になりました。不安の多い時代だからこそ、合理的な意思決定の土台を持つことが、未来を肯定的に描く力になると思います。ぜひ、私たちと一緒に、その一歩を考えてみてください。
※この記事は、Gurobi Japanの最適化コンサルティング シニアマネージャー・乾が監修しました。
数理最適化やGurobiの導入に関心のある企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
▼ その他の導入事例をご覧になりたい方はこちら
https://www.gurobi.com/case_studies/

